Bドット制御則

人工衛星の姿勢制御方法の中で、Bドット制御則というものがあります。インターネットでこの制御則について調べてみても、あまり情報が見つからなかったので、ここで内容を簡単にまとめておこうと思います。ここでは、参考文献1, 2を参考に、間違いだと思った箇所は自分なりに修正しつつ内容を解説していこうと思います。



1. Bドット制御則とは?

結論から言うと、Bドット制御則は「衛星と一緒に回転運動する座標系において、地磁気の時間微分と逆方向に磁気モーメントを発生させてやることにより、衛星の回転エネルギーをゼロに収束させる方法」になります。

以下では、この内容を具体的に解説していこうと思います。



2. 磁気トルカと磁気モーメント

Bドット制御則は磁気トルクを用いて姿勢制御を行う方法の一種です。磁気トルクを得るためには、通常、磁気トルカと呼ばれる装置を用います。

磁気トルカは端的に言えば電磁石(磁性材料の芯のまわりに、コイルを巻き、通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石3)のことであり、磁気トルカに流す電流の大きさを変えることにより、衛星の磁気モーメント  \vec{M} を調整してやることができます。この磁気モーメント  \vec{M}地磁気  \vec{B} が相互作用することによりトルク  \vec{T} \, (= \vec{M} \times \vec{B}) が発生しますが、このトルクは磁気トルクと呼ばれます。



3. 衛星の回転エネルギー

Bドット制御則では、磁気トルカを用いて衛星の磁気モーメント \vec{M} \frac{dE}{dt} \lt 0 になるよう調整することにより、衛星の回転エネルギー  E をゼロに収束させます。ここで、衛星の角速度を  \vec{\omega} 、慣性テンソル I とすると、衛星の回転エネルギー  E は、

 E= \frac{1}{2} \vec{\omega} ^{T} I \vec{\omega}

のように書けるので、  \frac{dE}{dt} は 次のようになります。

 
\begin{eqnarray}
  \frac{dE}{dt} &=& \frac{1}{2} \left( \frac{d\vec{\omega} ^T}{dt} I \vec{\omega} + \vec{\omega} ^T I \frac{d\vec{\omega}}{dt} \right) & \left( \because Iは時間不変 \right) \\
  &=& \frac{1}{2} \left( \vec{\omega} ^T I^T \frac{d\vec{\omega}}{dt} + \vec{\omega} ^T I \frac{d\vec{\omega}}{dt} \right) \quad & \left( \because 第1項はスカラーだが、スカラーは転置しても不変 \right) \\
  &=& \vec{\omega} ^{T} I \frac{d\vec{\omega}}{dt} & \left( \because I は対称行列 \right) 
\end{eqnarray} 

ここで衛星に働く全トルクを  \vec{T}_{all} とすると、  \vec{T}_{all} = I \frac{d\vec{\omega}}{dt} なので、

 \frac{dE}{dt} = \vec{\omega} ^T \vec{T}_{all}

と書くことができます。また、衛星に働くトルクは磁気トルクだけだとすると、

   \frac{dE}{dt} = \vec{\omega} ^T \left( \vec{M} \times \vec{B} \right) = \vec{M} ^T \left( \vec{B} \times \vec{\omega} \right)  \quad \left( \because スカラー3重積の性質より \right)

となります。詳細は後述しますが、  \vec{B} \times \vec{\omega} は、衛星と一緒に回転運動する座標系から見た地磁気の時間微分  \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_{r} に一致するので、

 \frac{dE}{dt} = \vec{M} ^T  \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_{r}  \lt 0

となるように磁気モーメント \vec{M} を調整してやれば回転エネルギーがゼロに収束することがわかります。つまり、磁気モーメント \vec{M} は、 \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_{r} と逆方向に発生させてやれば良いということになります。4



4. 回転座標系

4. 回転座標系 および 5. 地磁気の時間微分 を通して、 \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_{r} = \vec{B} \times \vec{\omega} について説明します。 ここでは、まず、文献5を参考に、回転座標系と慣性系の関係について一般的に議論します。

慣性系の単位ベクトル  \vec{e}^i \,\, (i=1,2,3) を下記の通りとします。


\vec{e}^1 = \left(
    \begin{array}{c}
      1 \\
      0 \\
      0
    \end{array}
  \right)
\quad , \quad
\vec{e}^2 = \left(
    \begin{array}{c}
      0 \\
      1 \\
      0
    \end{array}
  \right)
\quad , \quad\vec{e}^3 = \left(
    \begin{array}{c}
      0 \\
      0 \\
      1
    \end{array}
  \right)

また、慣性系に対して角速度 \vec{\Omega}=\left( 0,0,\Omega \right) ^T で回転する回転座標系の単位ベクトル  \vec{e}^{i^{\prime}} \,\, (i^{\prime}=1^{\prime},2^{\prime},3^{\prime}) を下記の通りとします。


\vec{e}^{1^{\prime}} = \left(
    \begin{array}{c}
      \cos \Omega t \\
      \sin \Omega t \\
      0
    \end{array}
  \right)
\quad , \quad
\vec{e}^{2^{\prime}} = \left(
    \begin{array}{c}
      -\sin \Omega t \\
      \cos \Omega t \\
      0
    \end{array}
  \right)
\quad , \quad\vec{e}^{3^{\prime}} = \left(
    \begin{array}{c}
      0 \\
      0 \\
      1
    \end{array}
  \right)

 \delta ^{i \,  j}クロネッカーのデルタとすると、これらの単位ベクトルの内積について下記が成立します。

 \vec{e}^i \cdot \vec{e}^j =\delta ^{i \,  j} \quad , \quad  \vec{e}^{i^{\prime}} \cdot \vec{e}^{j^{\prime}} =\delta ^{i^{\prime} \,   j^{\prime}}

また、回転座標系の単位ベクトルの時間微分を計算してやると、

\frac{d}{dt}\vec{e}^{1^{\prime}}=\Omega \vec{e}^{2^{\prime}} \quad , \quad
\frac{d}{dt}\vec{e}^{2^{\prime}}= - \Omega \vec{e}^{1^{\prime}} \quad , \quad
\frac{d}{dt}\vec{e}^{3^{\prime}}=0

より、

\frac{d}{dt}\vec{e}^{i^{\prime}} = \vec{\Omega} \times \vec{e}^{i^{\prime}}

が成立します。


ここで、任意のベクトル \vec{A}(t) のベクトルの各成分について、慣性系は添字 i、回転座標系は添字 i^{\prime} として、下記のように表されるとします。(以下では、アインシュタインの縮約記法を用います。)

\vec{A}(t) = A^{i}(t) \, \, \vec{e}^{i} \, \, = \, \, A^{i^{\prime}}(t) \, \, \vec{e}^{i^{\prime}}

このとき、\vec{A}(t) の時間微分は下記のようになります。

 
\begin{eqnarray}
  \frac{d}{dt} \vec{A}(t)  &=& \frac{dA^{i}(t)}{dt} \, \,  \vec{e}^{i}  \\
  &=& \frac{dA^{i^{\prime}}(t)}{dt} \, \,  \vec{e}^{i^{\prime}} + A^{i^{\prime}}(t) \, \frac{d}{dt} \, \vec{e}^{i^{\prime}} \\
  &=& \frac{dA^{i^{\prime}}(t)}{dt} \, \,  \vec{e}^{i^{\prime}} + A^{i^{\prime}}(t) \, \vec{\Omega} \times \, \vec{e}^{i^{\prime}} \\
  &=& \frac{dA^{i^{\prime}}(t)}{dt} \, \,  \vec{e}^{i^{\prime}} +  \vec{\Omega} \times \, \vec{A}(t) = \left( \frac{d\vec{A}(t)}{dt} \right)_r +  \vec{\Omega} \times \, \vec{A}(t)
\end{eqnarray} 

ここで、\left( \frac{d\vec{A}(t)}{dt} \right)_r \equiv \frac{dA^{i^{\prime}}(t)}{dt} \, \,  \vec{e}^{i^{\prime}} としましたが、これは回転座標系から見た \vec{A}(t) の時間微分になります。



5. 地磁気の時間微分

衛星の姿勢変動にまつわる時間スケールと比べると、衛星の軌道上位置の変化による地磁気 \vec{B} の変化は緩やかなので、 \frac{d\vec{B}}{dt} \approx 0 が近似的に成り立つとします。 このとき、衛星と一緒に回転する座標系から見た地磁気の時間変化  \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_r は、4. 回転座標系の議論において \vec{A}(t) = \vec{B} \, , \, \vec{\Omega} = \vec{\omega} とすることにより、

 0=\frac{d\vec{B}}{dt}=\left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_r +  \vec{\omega} \times \, \vec{B}

と分かります。したがって、 \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_r =  \vec{B} \times \, \vec{\omega} となります。

ここで、3. 衛星の回転エネルギー に戻って、\frac{dE}{dt} を計算すると、下記が成立することが分かります。

 
\begin{eqnarray}
\frac{dE}{dt} &=& \vec{M} ^T \left( \vec{B} \times \vec{\omega} \right) = \vec{M} ^T  \left( \frac{d\vec{B}}{dt} \right)_{r} \\
 &=& \left( M^{i^{\prime}} \vec{e}^{i^{\prime}} \right) \cdot  \left(\frac{dB^{j^{\prime}}}{dt} \vec{e}^{j^{\prime}} \right)\\
 &=& M^{i^{\prime}}  \frac{dB^{j^{\prime}}}{dt} \, \delta ^{i^{\prime}   j^{\prime}} \\
 &=& M^{i^{\prime}}  \frac{dB^{i^{\prime}}}{dt} \lt 0
\end{eqnarray} 

よって、Bドット制御則は「衛星と一緒に回転運動する座標系において、地磁気の時間微分と逆方向に磁気モーメントを発生させてやることにより、衛星の回転エネルギーをゼロに収束させる方法」と言えるかと思います。